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大切な常連のお客さまが急逝されました。(3/14/2002)
『フルネームの常連客』

カフェ・バッハ 中川

 その人は、下町生まれの下町育ち、ジャズが好きでおいしいものが好きで、30年前バッハに現われた時には、すでに東京のジャズ喫茶、コーヒー専門店を行脚している人でした。田口マスターより1才下昭和14年生まれで、その世代としては背がスラリと高く、常連客の中ではもっともスーツの似合うハンサムでした。それでいて口を開 けば下町のべらんめい、ちょっと乱暴な言葉づかいでしたが、わたしどもには馴れたご愛嬌でした。

 

田口が唯一共にコーヒー店を飲み歩いた、下町のグルメであり、わたしなどは有名なトンカツ屋でごちそうになりました。エアブラシを使って写真修正する職業でしたが、ご多分にもれずコンピュータ時代の到来と共に失職の憂き目にあいました。転職するときの条件は「バッハのコーヒーのそばに住む」でした。店としてはうれしい反面、田口は若いわれわれに「必ずしも よい選択ではないから、マネするな」と釘をさしました。選択の中には、結婚し家庭をもつことも望まない、が含まれていたからです。結局最後まで独身を通したのでした。

 

 田口からすれば同世代、しかも40の盛りで自分の技能を高め磨くことを諦めてしまうのが残念だったのでしょう。当時、田口自身は「喫茶店経営」誌の記事などを辿々しいタッチで、必死にパソコンに入力していましたから。失業者の再就職は現代と同じ、給料が減るだけです。それでも一生懸命という言葉 のとおり働いて「気にいった町に住む」「気に入ったカフェでコーヒーを飲む」こと を優先した生活を実証し続けました。

 

  そして、10余年前のある寒い朝、仕事場で卒中に倒れました。それでもまた一生懸命という言葉のとおりリハビリに励み、見事復帰。バブルの前と後で、ビル清掃業から運送業に転職しながら毎日コーヒーを飲みに来るまでになりました。亡くなるまで の1年間は、不自由な歩行もすっかり昔通りと見違えるほどでした。リハビリ直後、区の福祉課の世話になりながら、時折コーヒーを飲みに来店し、そ こで出会った同じコーヒー飲み仲間が社会復帰先として引き受けてくれました。それがビル清掃業。仕事を始めて1年間は、思うに任せぬ体で道具をもって悪戦苦闘、自分を叱咤激励する独り言が多かったといいます。

 

 この暖冬の2月半ば、少しだけ肌寒さが感じられた日、単身住いの部屋でひっそりと亡くなり、変死扱いで警察に運ばれたという報告が、ビル清掃業の常連客氏からありました。警察に連絡すると故人のお兄さんの電話番号を教えられ、顔見知りの常連客数人とお弔いにでかけました。お兄さんは、行き来がない弟の突然の死を兄弟だけで 見送るつもりだったといいます。お互い大人でそれぞれ干渉しないできたので、まさ かずっーと以前たった一度連れていかれたコーヒー屋さんでこんなに友人に恵まれて いたとは……。

 

 このお客さまは「藤田孝さん」といいます。バッハがフルネームで親交を結んだ第一世代の常連客です。そういえば、バッハ初期の頃を思い出すと店では、わたしは「なかちゃん」と呼ばれ、当時の店長は「みやちゃん」、アルバイトは「じゅんちゃん」でした。ニックネームからフルネームへ移行した頃、それはバッハが「自家焙煎コーヒー店」 という業態を確立しつつあるころと一致します。喫茶店といういわゆる「水商売」とか「匿名性」から脱却しつつあった黎明期です。考えてみれば、お客さまとフルネー ムでつきあっていたから、こうして見送れたのです。そのお客さまが「藤田孝さん」 と知っていることで、本当に「地域に根ざした」のだなあと感じます。

 


 

 

 

 

 

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