焙煎機・煙突の保守点検  田口護

(本文・柴田書店「喫茶店経営」誌1992年9月号「田口護のコーヒーの技術」所収)
(写真・撮影/曽根のぼる 柴田書店「喫茶店経営」誌1992年12月号「田口護・焙煎機のメンテナンス」掲載)

 

図解 焙煎機・煙突の保守点検 カラー写真 撮影/曽根のぼる  HP掲載協力/柴田書店

 

 コーヒーの味に関して、いろいろな問い合わせを頂戴します。
 例えば、甘味がなくなったとか、同じ焙煎をしているのに生豆が変わったせいでしょうか、といったものです。
 いちばん多いのが、香りがでないのですというもの。そのうえ、味に厚みがなくなり、抽出で湯を注いだときも段々に膨らまなくなってしまうというのです。

 これは芯残りのコーヒーに出る特徴でもあります。
 と同時に焙煎機の整備、保守点検はどうしたらいいのか、という相談も多くあります。 以上のふたつの相談には、関連がある場合が少なくありません。
 焙煎機が正常であることが、正しい焙煎の基でしょう。そのためには正しい整備、保守点検が必要なのです。年数が経つにつれ保守点検の善し悪しが、焙煎に影響を与えるようになってきます。
 自家焙煎店の経営者の多くは、大きな機械を使い込んでいくときの保守点検の経験が少ないのではないでしょうか。


 

 店での機械の保守といってもミルやエスプレッソマシーン、ガス台といったものから、冷蔵庫、製氷機、エアコンくらいでしょうか。それも、フィルターの掃除くらいで、個人で保守をするより業者にまかせる機械でしょう。
 その点、焙煎機は焙煎担当者の管理下にあり、保守点検もしなければなりません。
 例えば換気扇ひとつとっても、以前には1、2年たって排気ファンがまわらなくなって壊れたということも起きました。ファンには回転部分にオイルシールがついていて、油を注す小さな穴も開いています。 回転軸に細かな塵やカスがつくと、それが摩擦を大きくして回転を悪くするのです。CRCなどの浸透油または洗い油で拭き取ってから潤滑油をやることです。
 目安としては、手で回してやると、オイルが充分なら段々にゆっくりになっていって止まるのですが、摩擦係数が上がると、回転はパッと止まります。
 機械の保守点検の経験が豊かなら常識的なことなのですが、逆の場合、電気屋に換気扇を1、2年毎に取り替えられていた経営者もいます。 トイレの排気ファンなどが、ガスが発生する上出口が一カ所で、小さなゴミが付着しやすいのといっしょです。


 

 焙煎機は、プロ向に工場用としてしか作られていませんから、保守点検を全くメーカー任せではすまされない面があります。
 チャフも溜りますし、ベアリングも使用していますから常時保守点検が必要なのです。 それらが、焙煎に影響したりするのです。 保守点検の善し悪しは、少しずつだめになっていくために、数年を経るまで気がつかないことが多いのです。シリンダーがまわらない、といったはっきりしたことならば気がつくけれども、例えば、コーヒー豆の取り出し口の蓋が少しずつずれて隙間が開き、冷たい空気を吸って焙煎がうまくいかないときなどは原因がなかなかわからないのです。取り出し口と蓋の間にチャフが溜っても掃除しなければ、蓋を閉めるときに噛み合わせに抵抗が生じます。それでも、むりやり閉めたり、止め金の蝶番を緩めたりすると取り出し口に隙間ができるのです。

 

 
 保守点検は、毎日の忙しさにとり紛れて後回しにされやすいものですが、よい焙煎の維持のためには、用具を揃えて、日々の保守点検を怠らないことが大切です。
 ベアリングに油をやらないだけで、モーターを取り替えた人もいます。逆に油のやりようが悪くても同様です。ベアリング部分のカス取りをしないで、油だけ詰めていくとベアリングの間にカスが詰まって、焙煎中に回転が止まってしまうということも起きます。
 また、煙道部分の掃除が足りなかったために付着していたカスに火がついてブロワーをだめにしてしまった事例もあります。

 

 
 焙煎できないということは、すなわち商品がなくなってしまうことを意味しています。何十年も使えるものを掃除を怠るだけでだめにし、商売に影響を与えるのはプロとして恥ずかしいことです。安定した店作りのためには保守点検は欠かせません。  火力を上げたときの温度上昇が異常なのですが、というので訪ねたところ、煙道にカスが溜って、その抵抗が強くてちょっと上げるとドッと温度が上がり、細かな温度コントロールができなくなってしまっていたのです。 初めのうちは販売量も少ないので気にならないのですが、販売量が増え焙煎量も順調になった頃、そういった問題が表面化してくるのです。  焙煎機の基本的な保守点検を列挙します。


 

1.ダンパーの油差し  

焙煎排気ダンパーの心棒の真上にある2ミリ程度の小穴に油を差します。分度目盛り盤の清掃とストッパーへの油差しが必要です。  これを怠ると、焙煎で出た煙が付着して渋くなり、力を入れて開け閉めするために止めピンが馬鹿になりダンパーの開閉が出来なくなったり、遊間ができてダンパー開度が精確でなくなります。  ダンパーハンドルも初めは滑るように回転していたのです。  熱に強いエンジンオイルを使うとよいでしょう。汚れ落しなどに使う浸透油と潤滑油は別物ですので間違えないようにして下さい。

 

 

2.ベアリングのグリースアップ

本体主軸の前後の鏡盤には、ベアリングがあります。ここのグリースアップは大切です。油が切れると心棒が早く摩耗してしまいます。それでガタがくると大事です。  浸透油(洗油)と先の丸い罫書針などでカスをほじくり出して、何回も汚れを拭き取ってから、新しいグリースを塗り込んでいきます。この作業は事前に焙煎機を温めてからすると、とりやすいくなります。

3.スプーンストッパーと本体主軸の接触面のグリースアップ

これを怠るとストッパーが折れたり主軸が摩耗してストッパーが利かなくなります。  またストッパーとスプーンのセンターがズレてきます。(図1)

 

 

4.取り出し口と蓋の合わせ面の清掃

 本体から焙煎豆を取り出し中、蓋を放したりすると前鏡盤と取り出し蓋の間に豆が挟まって、取り出し蓋が極度に重くなることがあります。  この時にはむりやりに蓋を閉めきらないことです。重いのに閉めきるとストッパーの止めボルトが曲がってしまいます。そうするとストッパーとその止めのバランスが崩れて取り出し口の開閉が悪くなります。  焙煎が終了したので取り出そうとしたところ、噛んでしまって全然開かず、オーバーローストしてしまった例もあります。 噛んでしまった場合は手では開かなくなります。下からハンマーではたいてやっと開くぐらいです。  そうなってくると、開閉に困るのでストッパーのボルトをゆるめて開閉しやすいようにしてしまうのです。  その結果、本体と取り出し口の蓋とのあいだに隙間が生じます。そこから冷気が吸い込まれ良い焙煎が出来なくなるのです。  焙煎が駄目になったので来て欲しい、という場合にはこの例が非常に多いのです。  またこのストッパーの部分は、焙煎豆を取り出し中に煙で勳られるところでもあります。従って、接点の注油と清掃をまめにすることが大切です。(図2)

 

 

5.煙突の清掃

 これも徐々に劣化していくので確認しづらいのですが、定期的に掃除することが必要です。
 始めのうちは3カ月ぐらいで点検します。しかし、その頃はまだ焙煎量も少なく、煙突の内面も滑らかでチャフやススの付着も少ないのです。でも一定時間が過ぎると付着物の量が多くなるのです。
 点検は、一部分だけ見るのでなく屋外の縦煙突まで確実に点検することが大切です。
 屋外へ出てから1メートル程度の高さが溜りやすく、上から覗いても下から覗いてもなだらかで見落としがちです。
 メーカーには、各煙突の径に合わせてブラシのついた、長く継ぎ足しできる掃除棒もあります。(図3)
煙突がつまると排気能力は著しく低下します。着火の原因にもなり良い焙煎はできません。
 面倒でも煙突の掃除は確実に行なうことです。

 

 

6.温度計センサーの清掃

 時々、温度計センサーを引き抜いて掃除します。煤が層になってこびりついていると温度を正確に感知しなくなります。センサー部分だけを、ある程度煤を落したところで中性洗剤で洗ってやるとよいでしょう。
 団子のようにチャフが付いていた例もあります。先端にこびりつくとセンサーそのものが抜き差しできなくなります。それをムリヤリ抜こうとするとセンサーを曲げてしまって余計に抜けなくなってしまいます。
 センサーを曲げないように注意して下さい。
 確実に元通りに戻すことも大切です。

 

 

7.電気系統の点検整備
 電気系統の接点は、焙煎中に出る煙によって劣化してくるので接触不良防止のために、磨いてやるか、時には接点復活剤で洗ってやる必要があります。
 そのとき細かい配線を傷つけないようにしましょう。
 電気系統の保守点検は、必ず試験運転をし元の通り正常に作動することを確認して下さい。いざ使う段になって、掃除のために抜いたコンセントひとつであわててしまうこともありますから。

 

 

8.サイクロン
 まずはサイクロン全体を外して掃除します。掃除孔がありますから開けて覗いて内部を確認します。(外した蓋の内側に石綿がまわしてあったらパッキンとして使われているものですから、取らないようにします。)
 チャフが内面に層をなしていたら掃除します。これはいざというときの着火の原因にもなりますので注意します。
 (図4)の上の部分を忘れずに点検して下さい。



 

以上のような事です。  一番気をつけなければならないことは、煙突が詰まったために焙煎が悪くなったのに気付かず、習得した焙煎方法以外の火力、ダンパー調節でもって悪くなった焙煎を治そうとすることです。  それをすると、煙突詰まりという原因が取り除かれても正しい焙煎方法を忘れてしまい元に戻れなくなってしまうのです。  何はともあれ、焙煎機が故障したら大変です。商売の源であるから可愛がってほしいものです。

 バッハでは定期的に焙煎機の掃除を行なっています。右記のことに注意するのはもちろんの事ですが。  焙煎時の煙の通り道という通り道をチェックします。横煙突やL字煙突は要注意です。外せるところは、できるだけ外して確認します。忘れがちになるのは、

1) 冷却槽の網の下の内側と、3キロ5キロ焙煎機の場合は冷却槽を取り外した下の部分です。ちょっと重たいのですが外して、中に溜ったチャフなどを掃除機で吸い取ります。(図5)

2) 排気用ファン(ブロワー)。
モーターと連結していて、これまた重たいのですが、モーターごと外して中のファンの羽根を確認します。チャフなどがこびりついてきて、放っておくと全く排気しなくなったり、モーターが動かなくなったりすることもあります。毎回きれいに掃除します。

 排気ファンを取り外すとき、円を描くようにボルトでとめてあります。当り前の事ですが、真上のボルトから外さないで下さい。
 予め下に何か支えを入れて作業して下さい。支えながら全部のボルトを外してファンを抜くのですが、支えがないとモーターの重みでネジが曲がったり、焙煎機との接続部分が歪んだりして、元のように取り付けできなくなったり、取り付け後運転中にきしむ音をたてるようになったりする場合があります。
 

取り付けは、真上のボルトから絞めていきますが、1本1本をきつく絞めず、まずは全部のボルトをモーターが落ちないように軽く絞めていきます。その後、各々対角線上のボルトを絞めていきます。
 1本だけを強く絞めすぎるといったアンバランスなことにならないようにしましょう。 (図6)

(3)右のファンが取り付けられていた穴から、サイクロンへ抜けるトバ口。(図6)


(4)高所用ファン
 煙突の高さが取れないなどの諸事情で、外の煙突に高所用ファンを取り付けている場合は、?のファンと同様に汚れてチャフや埃が大量に付着すると排気が悪くなります。
 特にサイクロンよりも先に設置されていますが煙の通り道は狭くなっている上に、風雨に曝されることも多いのですから、汚れやすく、そうなると回転が遅くなり、煙の通る隙間も埋まってしまいます。汚れの周期を確認し、焙煎量によっては毎月点検が必要です。
 高所用ファンは確かに掃除しづらいほど高所にあったり、下から梯子をかけるにしても窓や屋根からも近づきづらい危険な場所に設置されていたりして注意を要しますが、計画的に点検掃除が必要です。
 焙煎中に煙が逆流しだしたり、スイッチを入れてもいつもの音や振動が伝わらないときは、できるだけ早い次期に点検の必要があります。


図解 焙煎機・煙突の保守点検 カラー写真 撮影/曽根のぼる  HP掲載協力/柴田書店